F−22 ラプター 戦闘機

F-22 Raptor air superiority fighter

F-22戦闘機

ロッキード・マーチンF−22ラプターは 現在アメリカ空軍と一部の空軍州兵によってのみ運用がなされている最新鋭の戦闘機である。
ステルス性と超音速巡航能力、そして高度なアビオニクスを搭載し、F−15イーグルや F−16ファイティングファルコン等従来存在した 如何なる戦闘機をも遥かに凌駕する能力を備えており、「第5世代戦闘機」または「航空支配戦闘機」とも呼称されている。

開発経緯

F−22ラプターはアメリカ空軍のATF(Advanced Tactical Fighter=先進戦術戦闘機) 計画によって生み出された機体である。
ATF計画とは当時拡大しつつあったソビエト連邦のSu−27フランカーおよびMiG−29フルクラム 戦闘機の脅威に対抗するため、次世代の制空戦闘機の評価・実証を行おうというもので、1981年にアメリカ空軍 によって開始されたプロジェクトだ。

アメリカ空軍は1985年に国内の航空機メーカーにコンセプトの提出を求め、その結果翌1986年にロッキード社と ノースロップ社の2案に選定し、候補機の開発を5社2チームに発注することを決定した。

YF−22
YF-22
YF−23
YF-23

こうしてロッキード、ボーイング、ゼネラルダイナミクスのチームと、ノースロップ、マクダネルダグラスのチームによる コンペティションというかたちで計画は進められ、それぞれのチームがプロトタイプを2機ずつ試作した。
すなわちロッキードチームのYF−22とノースロップチームのYF−23である。

評価試験の結果1991年4月23日、アメリカ空軍はロッキードチームのYF−22を採用することを決定した。
詳細な内容は公表されていないが、ステルス性や超音速巡航能力においてはYF−23が、機動性やコスト・整備性においてはYF−22 がそれぞれ優れており、最終的にYF−22の低コストと整備性の高さが決め手になったのではと推測されている。

もっともそれ以外に両陣営によるロビー活動など政治的要素も多分に絡んでいたとは想像できるが詳細は定かではない。

ステルス性

F−22が従来のいわゆる第4世代戦闘機ともっとも異なる点はステルス技術を採り入れている点だ。
ロッキード社ではF−117ナイトホーク戦闘機(実質は攻撃機) で本格的なステルス性を備えた機体を実用化させ、湾岸戦争においてもその 効果は実証された。

F-117 しかしこのF−117はステルス性に高いプライオリティが置かれたもので、基本的に夜間攻撃という単一のミッションを行う 機体であり、その機体形状のため空気力学的に不安定で戦闘機に求められるような高い敏捷性を持ち合わせていない。

F−22では空力特性を犠牲にすることなく高速性や優れた敏捷性を有すると同時に、 F−117と同様の高いステルス性をも備えることが求められた。

ここで言うステルス性とは主にレーダーに対する隠密性のことを指し、その度合いは レーダー反射面積(RCS=Radar Cross−Section)で表される。 この数値が小さい程レーダーからは探知されにくく追跡も困難になる。

F−22ではRCSを小さくするため、機体素材にステルス性を高めるものを用い、 インレットやメンテナンスハッチなどRCSの増大を招く部位にはRAM(Radar Absorbing Material=電波吸収剤)を使用し、 吸収し切れなかったレーダー波を特定の方向に逸らすため主翼や尾翼先端は同一の角度で統一されている。

エンジンブレードは正面から見えない また大きなレーダーシグネチャーとなるエンジンブレードは、ダクトをS字型に湾曲させることで正面から見えないようになっており、 アンテナ類の突起物は可能な限りなくし機関砲口やアレスティングフックなども使用時以外はカバーで覆われている。

機体表面をクリーンな状態にするために兵装類も基本的にすべて機内内蔵とされ、インレット両脇と胴体下面に計4箇所のウェポンベイ が備えつけられた。

これら徹底的な対レーダー対策の結果F−22のRCSは0.01u程度と言われており、大型の昆虫のそれに相当する極めて小さい数値を実現している。

高いステルス性を得たことで、ロッキード・マーチンが言う”First look,First shot,First kill” (先制発見、先制攻撃、先制撃破)が可能になる。
すなわちF−22のステルス性により敵戦闘機がレーダーで探知不能な距離から先に 相手を捕捉し、BVR(Beyond Visible Range=視程外)ミサイルで撃墜するという戦術である。

スーパークルーズ 超音速巡航

F119-PW-100 F−22はプラット&ホイットニー社製F119−PW−100ターボファンエンジンを2基搭載している。 F119は低いバイパス比を持ちアフターバーナー使用時に約35,000ポンド(158kN)の推力を発揮する。

ドライ時の推力は未発表だが、F119の派生型であり F−35用に開発されたエンジンF135−PW−100がアフターバーナー使用時に 約60%の推力増加となるため、この比率で計算するとF119のドライ時推力は21,875ポンドになる。

この数値はF/A−18Eスーパーホーネット艦上戦闘機が搭載するF414−GEがアフターバーナー使用時に得られる最大推力22,000ポンド に匹敵する。

この強力なドライ時推力に加え兵装類を機内に搭載し機体表面を突起物の少ないクリーンな状態に保つことにより、F−22は アフターバーナーを使用することなく超音速飛行を維持する、超音速巡航−スーパークルーズが可能になっている。

これまでの飛行試験の結果として公表されている 超音速巡航の実証値はマッハ1.72であり、この数値は同じく超音速巡航が可能な ユーロファイター・タイフーン戦闘機のそれ(マッハ1.5)よりも大きい。

超音速巡航能力の恩恵でF−22は燃料消費を急増させることなく長時間の超音速飛行が可能になる。 従来の戦闘機が超音速飛行を行うにはアフターバーナーの使用が不可欠だが、そうすると燃料消費量が約2倍となり 燃費が急激に悪化するうえ、エンジンの耐久性の限界からその作動時間は十数分に制限されていることが多い。

超音速巡航のメリットはBVRミサイルによる攻撃時にも現れる。
ミサイルを超音速巡航状態で発射すれば、最初からミサイルのもつ運動 エネルギーが大きいため、射程の延伸が可能になるのだ。

また目標が激しく回避運動を行っても大きな運動エネルギーをもつためそれを追い続けることが でき、このため敵機がミサイルを回避できない領域(ノーエスケープゾーン)が増大することにもつながる。

F119−PW−100エンジンはこのようにF−22に超音速巡航能力をもたらしているが、それにとどまらず 高い運動性をも与えている。
F119のエンジンノズルは推力偏向板が取り付けられたTVN(Thrust Vectoring Nozzle=推力偏向ノズル) になっており、エンジン推力を上下それぞれ20°まで偏向させることができるのだ。

エンジン推力を左右同じ方向に偏向させることによりヨー運動を、別方向に偏向させることによりピッチ運動を強化する。 このTVNによって、空気の密度が低く舵の効果が低下する高高度においても高い運動性を維持することが可能だ。

なおこの推力偏向板の動きは 飛行制御プログラムに組み込まれているため、パイロットが特別に操作を行う必要はない。

搭載兵装 アビオニクス

空対空兵装

4つのウェポンベイを全開にしたF-22 F−22は胴体下面にメイン・ウェポンベイを2つ、インレット両脇に短距離ミサイル専用のサイド・ウェポンベイをそれぞれ1つずつ、 計4箇所のウェポンベイを備えている。空対空ミッションの場合メイン・ウェポンベイに中距離空対空ミサイルの AIM−120Cアムラーム(AMRAAM=Advanced Medium−Range Air−to−Air Missile) を6発、サイド・ウェポンベイに短距離空対空ミサイルのAIM−9Mサイドワインダーを1発ずつ合計8発の空対空ミサイルを搭載する。

ミサイル搭載数だけを見ればF−15Cと同じだが、F−15Cが中距離ミサイルと短距離ミサイルを それぞれ4発ずつ搭載するのに対し、F−22は中距離ミサイルが6発、短距離ミサイルが2発となっている。

このことからもBVRでの戦闘に比重を置くF−22の特徴が表れている。
また将来的には最新型サイドワインダーであるAIM−9Xの搭載も予定されているが、上記の通りWVR(Within Visible Range=視程内) 戦闘の優先順位が低いため搭載は未だ実現していない。

使用頻度から言えばサイドワインダー以上に低くなると予想されるが、F−22には固定武装としてM61A2 20mm機関砲も搭載されている。
「バルカン」の名称で知られるM61は6砲身のガトリング砲で、F−22に搭載されるA2型はA1型に比べ202ポンド(91.6kg)軽量化 されたものとなっている。

搭載位置が右主翼付け根なのはF−15と同じだが、ステルス性を高めるため砲口にはカバーがされており、射撃時のみ開く ようになっている。装弾数は480発で、5秒間の連続射撃分に相当する。

空対地兵装

F−22は対地攻撃能力も備えているが、 メイン・ウェポンベイのスペースの関係や、現時点でF−22がターゲティングポッドなどのセンサーを搭載してい ないため、搭載可能な兵器は制約が生じる。

そのため現在のところ実装されている兵器は、GPSと慣性航法装置(INS)を備え自律誘導が可能な GBU−32 1,000ポンド(454kg)JDAMのみである。

GBU−32はメイン・ウェポンベイに1発ずつが納められるが、その状態で同時にAIM−120Cも 1発ずつ搭載することができる。

GBU-39 このJDAMに加え現在GBU−39SDB(Small Diameter Bomb=小直径爆弾)の実装が進められている。GBU−39はJDAMと同じ 自律誘導式の爆弾だが重量が250ポンド(113kg)と小型のため、メイン・ウェポンベイに4発ずつ計8発 が搭載可能になる。
また展張式の翼を備えていることによりリリース後の滑空飛翔が可能で、高高度からリリースした場合最大75km 程度まで射程を延伸することができる。

なおF−22には両主翼下に2箇所ずつハードポイントを備えており、ステルス性が求められないミッションではこの位置に パイロンを介して600ガロン燃料タンクを装備することも可能だ。

さらにパイロン両側に空対空ミサイルを装備することもできるが、ステルス性が低下するため使用頻度はかなり低いと思われる。

F−22搭載兵器配置図
搭載兵器配置図

アビオニクス

AN/APG-77レーダー F−22は機首にノースロップ・グラマン社が開発したAN/APG−77レーダーを1基搭載している。 これはAESA(Active Electronically Scanned Array)を用いたいわゆる アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーである。

AN/APG−77はレーダー波の送受信を行う約1,500個の電子素子モジュールから成り、上下左右それぞれ60°のエリアを 瞬時に走査することが可能だ。

またレーダー波を照射することによる被探知を防ぐため、走査エリアを限定したり出力を弱めたり等多様な 策敵モードを有している。 その探知距離は目標物のRCSにもよるが、125〜150マイルあたりと推測されている。

このAN/APG−77レーダーに加え、BAEシステムズ社のAN/ALR−94レーダー警戒受信機 (RWR=Radar Warning Receiver)、ロッキード・マーチン社の AN/AAR−56ミサイル発射探知機(MLD=Missile Launch Detector) などの防御装備が搭載されており、それらはすべて 統合化されたシステムに組み込まれている。

各々のセンサーが得た情報は レイセオン社のCIP(Common Integrated Processor=共通統合演算装置) 2基によって一括して処理され、コックピットのディスプレイに表示される。

配備・運用

F−22を運用しているのは現在アメリカ空軍とヴァージニア空軍州兵のみであり、他の同盟国に輸出される予定はない。 日本とオーストラリアがF−22購入を持ちかけたが、高度な先端技術の結晶であるF−22の技術流出を防ぐために米 議会でF−22の海外輸出を禁止する条項がもうけられたのだ。

この背景には、 それまでの戦闘機とは次元の違う文字通り「最強戦闘機」 であるF−22が日本に配備されることで台湾海峡の軍事バランスが崩れることを恐れた中国ロビイストの 活動も絡んでいたとも見られている。

輸出禁止措置が撤廃されない限りたとえ友好な同盟国であれどもF−22を取得することは難しい。 ロッキード・マーチン社は航空自衛隊の次期主力戦闘機導入計画(F−X)向けにややグレードを落としたF−22J−Exを提案していたが、状況を 動かすには至らず、F−22 は生産数187機(試作機を含めば195機)をもって生産終了となった。

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Specifications
用途 戦闘機
エンジン F119-PW-100ターボファンエンジン×2
推力:35,000 lb / 15,876 kg
全長 18.90 m
全幅 13.56 m
全高 5.09 m
最大速度 約マッハ2
実用上昇限度 19,812 m
重量 19,700 kg(乾燥重量)
38,000 kg(最大離陸重量)
燃料搭載量 8,200 kg(機内のみ)
11,900 kg(増槽2本使用時)
航続距離 2 963.2 km(増槽2本使用時)
武装 M61A2 20mm機関砲(弾数480発)
乗員 1名

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