大鳳型航空母艦
Taiho class aircraftcarrier
昭和12年度の第三次補充計画(B計画)で建造された
翔鶴型航空母艦は、軍縮条約による制限を離れ、また過去に建造された
空母の実績を取り入れて建造された理想的な艦隊型空母であったが、飛行甲板防御に関しては十分な防御力を備えて
いなかった。
この当時、イギリス海軍は1936年計画で飛行甲板や格納庫に防御を施したイラストリアス級航空母艦を建造中であったが、
日本海軍でも飛行甲板防御を施した空母の建造が要望され、昭和14年度海軍軍備補充計画(C計画)で大型空母一隻が計画された。
これが第一三〇号艦と呼ばれた大鳳である。
重装甲空母
大鳳の最大の特徴は飛行甲板に爆弾防御のために装甲を施したことで、前後部の昇降機間150メートルが幅20メートルにわたって
防御甲板が装備されていた。
この防御甲板は20ミリDS鋼鈑の上に75ミリCNC鋼鈑を装着したもので、500キロ爆弾の急降下爆撃に
耐えうるように設計されていた。防御甲板の装備により、たとえ防御甲板に被弾があったとしても、飛行甲板は破損・変形する
ことなく、最小限の発着甲板が確保できると考えられた。
このように飛行甲板に防御を施した関係から、艦の重心点の上昇による復元力低下を極力防止する必要があり、翔鶴型より甲板数を一段減らし 、乾舷の高さを低めていた。そのため艦首部形状は耐波性を考慮して、飛行甲板先端部と艦首外板を包み込んだ形状のハリケーン・バウ (エンクローズド・バウ)が採用された。
翔鶴型では3基が装備されたエレベーターは、大鳳では飛行甲板防御の関係から中央部1基が廃止され、格納庫両端部に各1基が装備された。
このエレベーターは重量増大を防ぐため飛行甲板並みの防御は見送られたものの、50ミリの防御鋼鈑が装着されていた。
その他の防御は、機関室、軽質油タンクは800キロ爆弾の水平爆撃防御、弾火薬庫、爆弾庫は1000キロ爆弾の水平爆撃防御とされ、 さらに砲弾に大しても相当の防御力を有する構造とされた。また水中防御も主要部800キロ魚雷に耐えうる構造とされ、 防御鋼鈑の装着と防御区画が設けられた。
大鳳は重装甲空母として、他の空母よりも生存性が高いと考えられていたため、爆弾、軽質油は自艦の搭載機の他、僚艦にも 補給できるように標準搭載量の二倍を搭載していた。
沿革
大鳳は昭和16年7月、川崎重工業神戸艦船工場で起工され、18年4月進水、19年2月に呉海軍工廠に回航され最終工事を実施、 19年3月7日就役、同日付で第三艦隊第一航空戦隊に編入された。内地で約一ヶ月の就役訓練を行った後、19年4月、リンガ泊地 へ進出した。
そして「あ号作戦」発動とともにマリアナ沖の決戦海域に出撃したが、6月19日午前8時10分、 アメリカ第58任務部隊を攻撃するため発艦作業中だった大鳳に、米潜水艦アルバコアの放った6本の魚雷 のうち1本が右舷前部昇降機付近に命中した。
命中魚雷は船体に破口を生じさせ、艦首を1.5メートルほど沈降させたが、致命傷にはならず大鳳はなお26ノットの速力を
維持することができた。
問題はこの際の衝撃で前部軽質油タンクのガソリンが漏洩したことと、前部エレベーターが開口状態で作動しなくなってしまった
ことである。
開口状態では航空機の
発艦も着艦もままならぬため、エレベーター開口部を応急資材で塞ぐという緊急措置が即座に行われた。この応急措置のおかげで
空母としての機能を維持することはできたが、漏れ出たガソリンは行き場を失い、密閉された艦内に充満して行った。
充満したガソリンを逃がすために船体に穴を開け換気させようという措置もとられたが、その甲斐無く午後2時32分、凄まじい
引火爆発が発生した。
この爆発の直接的な原因ははっきりと究明されていないが、爆発の衝撃は装甲甲板を盛り上げ、ハンガーの側面を吹き飛ばし、
喫水線下の舷側まで突き破り、大鳳はそのすべての能力を失った。
敵の航空攻撃には十分な防御力を発揮するであろう防御甲板が、内側からの爆発の際には巨大な蓋となり、逃げ場を失った爆風
が艦内を破壊しつくしたのである。
左舷に大きく傾斜した大鳳はその後も燃え続け海上を漂流していたが、午後4時28分、艦首から沈んでいった。
敵の攻撃に対して十分な防御力を備えた大鳳だったが、その真価を発揮することなく、予想もしなかった原因で失われたのである。
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Specifications | ||
排水量 | 29,770t(基準)、37,270t(満載) | |
全長 | 260.6m | |
全幅 | 31m(飛行甲板) | |
最高速度 | 33kt | |
航続距離 | 10,000海里(18kt) | |
動力装置 | タービン4基4軸,160,000馬力 | |
武装 |
10cm連装高角砲6基12門 25mm3連装機銃37基 |
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搭載機 | 61機 | |
乗員 | 1751名 | |
同型艦 | なし |
最新鋭の空母として海軍の期待を一身に背負い竣工した大鳳。
その出自とは うらはらに大鳳のたどった運命はあまりにあっけなく涙を誘います。
しかし造形としての大鳳は、エンクローズド・バウや、傾斜煙突などそれまでの 日本空母にはあまりない特徴を多く持ち、随一の美しさを誇っていると思うのですが どうでしょう。