伊勢型戦艦
Ise class battleship
大日本帝国海軍が 扶桑型戦艦 に続き建造した超弩級戦艦「伊勢」「日向」は、もともと扶桑型戦艦の3番、4番艦として 計画されていた。しかし予算の都合で起工が大幅に遅れる間、先に竣工した扶桑型戦艦の運用実績を基に再設計 が成されため、伊勢型戦艦と扶桑型とは別に分類されるのが一般的である。
"航空戦艦"、「伊勢」「日向」
ミッドウェー海戦で正規空母を一挙に4隻喪失した事を受け、既存の戦艦を航空母艦へと改装する案が持ち上がったところ、 おりしも「日向」が砲塔爆発事故で5番砲塔を失っていたため、伊勢型戦艦が改装対象に選ばれた。
当初の計画では全通飛行甲板を持つ完全な空母へと改装することになっていたが、資材節約と工期を短縮するため、艦橋から後部の 3番〜6番砲塔を撤去し、飛行甲板と格納庫を設けることになった。しかしその後逼迫する戦況に伴い計画はさらに縮小され、 結局後檣から船尾側の5番・6番砲塔のみを撤去し、そこに航空作業甲板等の航空艤装を施すことに落着した。
搭載機は爆装も可能な水上偵察機「瑞雲」と、カタパルトの射出用に強化された 艦上爆撃機「彗星」二二型の2機種計22機が予定されていた。
発艦は航空作業甲板前端両舷に2基設置された火薬式カタパルトで射出して行う。艦への収容は、水上機である「瑞雲」の場合、着水後に 艦尾のクレーンで行うが、「彗星」の場合は最寄の基地か空母に収容するか、水上に不時着させた後に乗員のみ回収するとされた。
「伊勢」「日向」の最期
このように、世界的に見ても稀な「航空戦艦」とも言うべき艦へと変貌を遂げた「伊勢」と「日向」だったが、「瑞雲」の量産が 間に合わなかったため、搭載機を持たないまま戦線に復帰することになった。
レイテ沖海戦の際も搭載すべき機体はなく、実質的には戦艦としての参戦だった。 このとき「伊勢」と「日向」は、小沢治三郎中将率いる第三艦隊隷下の第四航空戦隊に所属し、 米空母艦載機を迎え撃つ対空戦闘に従事した。この戦闘(エンガノ岬沖海戦)で味方空母4隻すべてが撃沈された後は、 「伊勢」と「日向」に攻撃が集中されたが、 作戦前に増強された機銃や30連装対空噴進弾が威力を発揮し、また松田千秋中将指揮による 巧みな回避運動のため、両艦とも被害を受けることなく無事生還を果たした。
その後は航空機格納庫スペースを活かし、南方から本土へ資源物資を輸送する任務(北号作戦)に就いたこともあった。
しかしやがて艦を動かす燃料も尽きたため
、浮き砲台として呉港外に係留されていた。
そしてその回避運動もままならぬ状態で1945年7月24日、米軍の呉港大空襲に遭い、「伊勢」「日向」ともに大破・着底し、 そのまま終戦を迎えた。
なおこのときの空襲では、「伊勢」「日向」の他に、戦艦「榛名」、航空母艦「天城」、巡洋艦「利根」「青葉」「大淀」など 残存していた艦艇のほとんどが破壊されるか被害を被り、文字通り帝国海軍は壊滅した。
終戦後になり引き上げられた両艦は解体され、戦後日本の復興の礎となり、その数奇な生涯を終えた。 外洋で沈み今なおその躯体を眠らせている「大和」などとは違い、解体された伊勢型戦艦の痕跡は写真でしか偲ぶことはできない。しかし 2番艦「日向」の名は、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」に受け継がれている。
関連動画
- 戦艦「伊勢」(YouTube)
- 終戦後に撮影された「伊勢」の映像です。大破状態で呉港外に着底しています。
- 戦艦「日向」(YouTube)
- 上と同日に撮影されたと思われる「日向」の映像です。
Specifications | ||||
新造時 | 大改装後 | 航空戦艦時 | ||
排水量(基準) | 31,260t | 35,800t | 35,350t | |
全長 | 208.18m | 215.8m | 219.62m | |
全幅 | 29m | 31.7m | 31.7m | |
最高速度 | 23kt | 25.3kt | 25.3kt | |
動力装置 | 混焼缶24基 タービン2基4軸 45,000馬力 |
専焼缶8基 艦本式タービン4基4軸 80,000馬力 |
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武装 | 35.6cm連装砲 | 6基 | 6基 | 4基 |
14cm単装砲 | 20基 | 16基 | なし | |
12.6cm連装高角砲 | なし | 4基 | 8基 | |
7.6cm単装高角砲 | 4基 | なし | なし | |
25mm機銃 | なし | 20門 | 57門 | |
53.3cm魚雷発射管 | 6門 | なし | なし | |
30連装噴進砲 | なし | なし | 6基 | |
装甲 | 舷側装甲 | 305mm〜356mm | ||
主砲塔前盾 | 305mm | |||
前部司令塔 | 305mm | |||
後部司令塔 | 152mm | |||
甲板装甲 | 56mm~36mm | 97mm(中甲板) 51mm(上甲板) | ||
航空艤装 | なし | カタパルト1基 水偵3機 |
カタパルト2基 「彗星」または「瑞雲」22機 |
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乗員 | 1,360名 | 1,376名 | 1,463名 | |
同型艦 | 伊勢 日向 |