オスカー級原子力潜水艦
проект949 "Гранит" / 949А "Антей"
Oscar / OscarU class submarine
冷戦真っ只中の1960〜1970年代、ソ連では軍備増強と兵器の性能向上著しいアメリカとの戦力バランスを維持するため、
巨額の予算を計上し多種多様な原子力潜水艦やミサイルの試案が作成された。
それらが標的とした対象は言うまでもなくアメリカ海軍機動部隊であり、その中心にある航空母艦であった。
アメリカの機動部隊は空母戦闘群(現空母攻撃群)と呼ばれ、航空母艦を中心にミサイル巡洋艦や駆逐艦、フリゲート艦等の
護衛艦艇によって構成されている。
さらに空母の搭載する艦載機の防空圏は500kmにも達していた。
この強力な空母戦闘群に対抗するため、
当時のソ連海軍は「アメリカ空母を1発で葬り去ることが可能なミサイル」を設計局に要求した。
具体的には射程500km以上、速力2,500km/h以上というものだったが、ミサイル射程や速力は
指定したもののサイズについては制限しなかったため、必然的に巨大化の道をたどることになった。
そうして生み出されたのが射程700km、発射重量7トンに達するモンスター・ミサイル、P−700型「グラニート」 (NATOコードネームSS−N−19「シップレック」) 対艦巡航ミサイルと、そのグラニートを24発も搭載するプラットフォームとなる949型原子力潜水艦(NATOコードネーム「オスカー」)である。
オスカー級原子力潜水艦の特徴としてまず挙げられるのが、その巨大な船体サイズだ。竣工当時は世界最大の 潜水艦であり、現在でもオスカー級を上回る規模の潜水艦は、ロシアのタイフーン級および最新鋭のボレイ級、 アメリカのオハイオ級と数える程しか存在しない。しかも前出の3級はいずれも潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した 弾道ミサイル潜水艦(SSBN)なので、巡航ミサイル潜水艦(SSGN)であるオスカー級潜水艦の巨大さは現代においても 際立っている。
巨大化の理由には搭載する24発のグラニート巡航ミサイルのサイズに因るところが大きいが、グラニートの誘導方式にも
起因している。
グラニートは「レゲンダ」と呼ばれる、人工衛星を利用した地球規模の海洋情報収集システムと連動した誘導システムを採用している。
レゲンダ・システムには2種類の衛星があり、ひとつは小型原子炉を搭載するレーダー衛星で、もうひとつは太陽電池を搭載した
光学偵察衛星である。
これらの衛星から送信されてくる情報は、地上の司令部、水上艦艇、原潜で受信可能で、当然オスカー級にもその受信・解析装置が
搭載されるが、その戦闘情報指揮装置のハードウェア自体が非常に大掛かりでかさ張るのである。
巨大化のもうひとつの理由は乗員の居住環境を重視した点にある。
オスカー級以前の原潜では戦闘能力が第一の優先事項とされ、乗員の居住環境は二の次に置かれたため、
劣悪な居住性が乗員にストレスと運動不足をもたらし潜在的に戦闘力が低下してしまう懸念があった。
これに対しオスカー級ではスポーツ・ルームや、音楽が聴けるリラクゼーション施設の設置に加え、
小鳥や観賞魚の飼育も出来るなど、艦内環境の充実が図られている。
このようにグラニート・ミサイル、レゲンダ・システムの搭載、居住環境の重視、さらに船型も制約を受けることなく 設計されたため、オスカー級はとてつもなく巨大な原潜として誕生したのだ。
しかしそれでもソ連海軍は艦内容積が不足しているとし、3番艦以降から原子炉関連の補機を収めた区画2つに分け、 全長を11メートル延長させた949A型(NATOコードネーム「オスカーU」)を建造させた。
現在949型(オスカー)の2隻は既に退役し、949A型(オスカーU)の運用も2020年に終了すると見られている。 技術の進歩によりミサイルも小型化が可能になったため、オスカー級のような高コストな巨大原潜は必要性が薄れているのだ。
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Specifications(カッコ内はオスカーU級) | ||||
水上排水量 | 12,500t (14,700t) | |||
水中排水量 | 16,500t (19,400t) | |||
全長 | 144m (155m) | |||
全幅 | 18.2m | |||
喫水 | 9.2m | |||
水上速度 | 15kt | |||
水中速度 | 32kt | |||
機関 | 原子力タービン OK-650M01加圧水型原子炉2基(OK-650M02加圧水型原子炉2基) タービン出力50,000馬力×2 DG-190ターボ発電機1基 424型銀亜鉛電池152基2群 2軸推進 |
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武装 | P-700 / SS-N-19型巡航ミサイル24基 650mm魚雷発射管2門/搭載魚雷8〜12本 533mm魚雷発射管4門/搭載魚雷16本 |
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乗員 | 94名 (107名) | |||
同型艦 |
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このようなミサイルを多数搭載した巨大潜水艦の建造はかつての大艦巨砲主義を彷彿させる ものがあり、やがて消え行くその結末までがオーバーラップします。戦艦がそうだったように、 このオスカー級やタイフーン級のような巨大潜水艦もノスタルジックに語られる時代が来るの かも知れません。