大和型戦艦
Yamato class battleship
大日本帝国海軍が
長門型戦艦に続き建造した戦艦大和およびその姉妹艦武蔵は、
全長263m、全幅38.9m、満載排水量72,809t、そして艦載砲としては史上最大の46cm(18.1インチ)砲を9門搭載した
あまりにも有名な超弩級戦艦である。
大和型戦艦は日露戦争で生起した日本海海戦のような、アメリカの戦艦部隊との艦隊決戦
を行うことを目的として建造されたが、竣工した当時海戦の主役は既に戦艦から航空機に移っており艦隊決戦の
機会はついに訪れなかった。
大和が敵艦に向けてその主砲を放ったのは、レイテ海戦時にサマール島沖でアメリカ護衛空母群と遭遇した際の一度きりであった。 この時大和が他の艦と共同で上げた戦果は、護衛の駆逐艦や空母艦載機の激しい抵抗を受けたこともあり、 護衛空母ガンビア・ベイ(CVE-73 Gambier Bay)、駆逐艦ホエール(DD-533 Hoel)、ジョンストン(DD-557 Johnston)、 サミュエル・B・ロバーツ(DE-413 Samuel B. Roberts)の計4隻のみにとどまっている。
結局大和はその能力を十分に発揮することなく沖縄特攻(菊水作戦)時にアメリカ空母艦載機
の集中攻撃を受け、爆弾7発、魚雷10本余りの命中、無数の至近弾により沈没した。
なお姉妹艦の武蔵も大和に先立つこと約半年、レイテ海戦においてやはりアメリカ空母機動部隊の5波にわたる
航空攻撃により沈没している。この時の武蔵は爆弾10発、魚雷実に20本(諸説あり)も受けながらなお右舷内軸が稼動、
操舵可能
という異常なまでに強力な抗堪性を見せつけている。大和の被雷本数が武蔵に比べて少ないのはこのときの教訓に則り、
魚雷攻撃を片舷に集中(一本を除きすべて左舷に命中)させたためだと言われている。
主砲
大和および武蔵に搭載された46cm(18.1インチ)砲は、戦艦史上もっとも強力な大砲である。
僅かに
アイオワ級戦艦の16インチ砲Mark7が長距離における破壊力で46cm砲に近い威力を持つが、
こと近距離の貫徹力においては他に並ぶものが存在しない。
これらの大砲はその実際の威力を秘匿するため、公式には「九四式四〇サンチ砲」と呼ばれていた。
アメリカも大和の主砲口径サイズを掴んでおらず、戦後になって初めて明らかになった。
大和型戦艦はこの46cm砲を三連装にした砲塔を前甲板に2基、後甲板に1基搭載し、合計9門の 46cm砲を装備していた。砲塔の旋回は1秒間に2度、砲の俯仰は1秒間に10度の速さで動き、 最短30秒間隔で射撃することができた。
46cm砲の砲弾には対艦用の九一式徹甲弾、対空用の零式通常弾と三式焼霰弾(しょうさんだん)の3種類があった。 九一式徹甲弾は重量が1.46t、長さが1.9835mあり、この巨大な砲弾を遠方にまで 投射するのに必要な装薬は、砲戦距離にもよるが通常は230kgだった。初速は秒速780m、最大射程距離は 42,030mだった。
九一式徹甲弾による貫徹能力 | ||
距離 | 対舷側装甲 | 対甲板装甲 |
0m | 864mm | --- |
20,000m | 494mm | 109mm |
30,000m | 360mm | 189mm |
※information source: Battleships: Axis and Neutral Battleships in World War II |
零式通常弾は対空用の榴弾で、時限信管によって任意の地点で炸裂する。
三式焼霰弾は今で言うクラスター爆弾のようなもので、弾体の中に数個の子弾が収められており、やはり時限信管によって炸裂し、
子弾を射撃方向へ20°の円錐状に放出する。子弾は放出後約0.5秒で着火して、5秒間3,000℃
の高熱で燃焼する(左図参照 クリックで別窓拡大表示されます)。
ただし見た目の派手さとはうらはらに危害範囲がさほど大きくなかったため、実戦での効果は
少なかったようだ。
零式通常弾も三式焼霰弾も重量は1,360kgあり、初速は秒速805mだった。
46cm砲は全部で27門製造され、最初の物は1938年に完成し、 亀ヶ首海軍大砲試射場 にて射撃テストが行われた。27門のうち18門は大和と武蔵とともに失われ、亀ヶ首にあった試験に使用された2門が 戦後アメリカ陸軍の武装解除命令により破棄処分となった。残る7門は亀ヶ首北部の入り江の海岸で、製造途中のものも含め 様々な状態で発見された。その7門のうち5門も破棄処分となる一方、最後の2門はアメリカのダールグレン試験場(Dahlgren Proving Grounds)に 移され、調査に使用された後、スクラップにされた。
副砲
三年式15.5cm砲搭載艦 |
最上型軽巡洋艦 |
軽巡洋艦大淀 |
大和型戦艦の副砲である三年式15.5cm砲は、もともと最上型軽巡洋艦の主砲として使用されていたものだったが、 最上型が主砲を20.3cm砲に換装する際に撤去されたものを大和型の副砲として流用したものである。 このとき最上型から下ろされた砲塔は、大和型戦艦の副砲の他、軽巡洋艦大淀の主砲としても使用された。
竣工時はこの3連装砲塔を、二番主砲後部、左右両舷、三番主砲前部に1基ずつ計4基12門搭載していた。 しかし海戦の主役が戦艦から航空母艦を中心とした航空戦力に移り、航空攻撃に備える必要から両舷の 二番・三番副砲は撤去され、大和は12.7cm連装高角砲6基に、武蔵はレイテ海戦に間に合わせるため 25mm三連装機銃6基に置き換えられた。
三年式15.5cm砲は戦艦の副砲としては最大級の口径で破壊力も高く、対艦用としては優れた性能を持っている。
また最大仰角が75度あるので対空射撃も可能だった。ただし装填角度が固定されているため(仰角7度)、高仰角で効果的な弾幕を張る
には発射速度が低過ぎ、対空砲としては能力が不足していた。しかし遠距離からの射撃で、敵編隊を牽制するのに一定の
効果を示したとの報告もある。
対空兵装
大和型戦艦は竣工時、対空兵装として12.7cm連装高角砲を6基、25mm3連装機銃を8基、13mm連装機銃を2基 搭載していた。しかし副砲の項で述べた通り、発達著しい航空機に対抗する必要から、これらの装備は大幅に増強されることになる。
大和の場合、最終的に高角砲は竣工時の倍である12基24門が搭載された。機銃の数については諸説あるが、25mm3連装機銃が52基、 同単装機銃が6基、13mm連装機銃が竣工時と同様の2基という説が有力だ。
高角砲
大和型戦艦に搭載された高角砲は四○口径八九式12.7cm高角砲で、戦艦・空母をはじめとする大日本帝国海軍の主要な艦艇に搭載 されたものだ。
通常弾や三式弾を秒速700〜725mで撃ち出し、仰角45度での最大射程が14,800m、仰角75度での 最大射高が9,400mだった。
砲身の俯仰速度は12度/秒で、砲塔の旋回速度は6〜7度/秒だった。
後に電動機を10kwから15kwに強化し、俯仰速度・旋回速度をともに16度/秒まで上げたB1型も開発されたが、
これは松型および橘型駆逐艦に搭載された。
搭載機銃
大和型戦艦の25mm機銃は正式名称を九六式25mm高角機銃といい、フランスのオチキス社製25mm機銃を改良して
製造されたものだ。
九六式25mm機銃はそれまでにあったヴィッカース社製の40mm機関砲が発射速度、威力、信頼性等に難があったことをうけて
、この40mm機関砲を代替するかたちで導入された。
九六式25mm機銃は目標との距離が1,000m以下で最も効果を発揮し、日本側の試算では高度1,000m、距離2,000mの航空機を 1機撃墜するのに約1,500発の射撃が必要としていた。
しかし実戦では機銃が命中しても威力不足からなかなか撃墜できないケースも多く、戦艦武蔵の猪口艦長も機銃の威力増大を求める報告を行っている。
九六式25mm機銃は最終的に33,000門あまりが生産され、あらゆる水上艦艇に搭載されたほか陸上用としても使用され、硫黄島の 戦いでは上陸してくるアメリカ軍の舟艇や車両に対して威力を発揮した。
防御
大和型戦艦の防御は想定交戦距離2万〜2万5千メートルから放たれた自艦と同じ46cm砲に耐えることを目標として設計された。 ただし艦全体をそのような重装甲で覆うのはとてつもない重量になってしまうため、主砲塔、弾火薬庫、機械室、司令塔などの重要箇所 (ヴァイタルパート)のみを装甲で覆う集中防御方式を採用している。
舷側装甲は最大410mm、甲板装甲は200mm、司令塔は500mmの 装甲で覆い、主砲塔前盾に至っては650mmにも達した。
艦中央部にはバルジが張られており、バルジと舷側甲板の間隔は3mあり、海水 が満たしてある。魚雷がバルジを突き抜けても海水が衝撃を吸収し、さらに甲板を貫通して炸裂しても二層になった水密縦壁が爆発の衝撃を 吸収し、缶室や主機室に被害が及ばないようにしてある。
大和型戦艦船体断面図 |
また大和は魚雷などの被害を受け浸水しても、艦を安定させるための注排水システムを採用していた。 注水は艦の前部、中央部、後部の三箇所にある傾斜復元管制所で、注水用のハンドルを回すと、油圧によって 水防隔室の注水弁が開き、必要と思われる量の海水が流れ込む仕掛けになっている。 艦の水平を保つ必要があるのは、どちらかに傾斜すると主砲の射撃精度が落ちるからである。
関連リンク
- 軍艦たちの眠る場所
- 大和型戦艦をはじめとする帝国海軍艦艇の沈没位置をGoogleマップで表示しています。
- 呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)
- 呉市の博物館で、10分の1の戦艦大和や零戦62型、人間魚雷回天等が展示されています。
Specifications(大和) | |||
排水量 | 72,809t(満載)、69,100t(公試)、64,000t(基準) | ||
全長 | 263m | ||
全幅 | 38.9m | ||
最高速度 | 27.0kt(50km/h) | ||
動力装置 | ボイラー12基、艦本式オールギヤードタービン8基4軸、150,000馬力 | ||
武装 | 竣工時 | 最終時 | 46cm三連装砲 | 3基 | 3基 |
15.5cm三連装砲 | 4基 | 2基 | |
12.7cm連装高角砲 | 6基 | 12基 | |
25mm三連装機銃 | 8基 | 52基 | |
25mm単装機銃 | ― | 6基 | |
13mm連装機銃 | 2基 | 2基 | |
装甲 | 主砲砲塔前盾 | 650mmVH鋼鈑(傾斜45度) | |
主砲塔天蓋 | 270mmVH鋼鈑 | ||
主砲バーベット | 560mmVH鋼鈑 | ||
舷側装甲 | 410mmVH鋼鈑(傾斜20度) | ||
甲板装甲(中甲板) | 200mmMNC鋼鈑 | ||
指令塔 | 500mmVH鋼鈑 | ||
※VH=Vickers Hardened MNC=Molybdenum Non Cemented | |||
水密区画数 | 1,147 | ||
航空艤装 | カタパルト2基、水上偵察機7機搭載 | ||
乗員 | 2,750名 | ||
同型艦 | 大和、武蔵( 3番艦信濃は空母として竣工) |