アイオワ級戦艦
Iowa class battleship
アイオワ級戦艦はアメリカ海軍が第二次大戦期に竣工させた、初めて海軍軍縮条約の制約を受けずに造られた同海軍最大の戦艦であり、また アメリカ海軍が最後に建造した戦艦でもある。
アイオワ級戦艦は日本海軍の金剛型巡洋戦艦のような戦艦の主砲を装備し高速で走り回ることができる艦艇から
航空母艦を守ることを目的とした「高速戦艦」という新しいタイプの戦艦だった。そのため空母機動部隊に
随伴でき、金剛型を追撃できるよう33ノットという戦艦史上最大の速力が与えられた。
このように船体サイズこそ
大きいが、アイオワ級戦艦の性格は伝統的な巡洋艦や
アラスカ級大型巡洋艦に近いものだった。
アイオワ級戦艦は全部で6隻の建造が計画されたが、そのうち完成したのはアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシンの
4隻で、残る2隻、イリノイとケンタッキーの建造はキャンセルされている。
完成した4隻のアイオワ級戦艦はすべて太平洋戦線に投入され、空母護衛任務や日本本土への艦砲射撃任務などに使用された。
また3番艦のミズーリは日本の降伏文書調印が行われたことでも知られている。
第二次大戦終了後、アイオワ級戦艦は退役し予備役に編入されたが、朝鮮戦争やベトナム戦争など大規模な戦争が勃発する度に
現役に復帰し、艦砲射撃などに従事した。
そして80年代にはレーガン大統領の「600隻海軍構想」の下近代化改装が施され、
BGM−109トマホーク巡航ミサイルやRGM−84ハープーン対艦ミサイル、ファランクス20mmCIWS等が新たに装備された。
アイオワ級戦艦は湾岸戦争にも参加し、トマホークミサイルによる拠点攻撃や、艦砲射撃による絶大な攻撃力を発揮し、戦艦
の有用性を示した。
しかしこれだけの巨艦を維持し続けるにはやはりコストがかかり過ぎるため、4隻のアイオワ級戦艦は90年代の内に
すべて退役し、アメリカ各地で記念艦やモスボール艦として余生を過ごしている。
武装
アイオワ級戦艦の主砲を選定する際、4つのプランが検討された。
一つ目は日本の大和型戦艦 に匹敵する18インチ砲、Mk1を三連装三基9門搭載するというものだ。 しかしこの18インチ砲を採用した場合、重量増加により速度低下が免れない、建造期間の増加をもたらす、 装甲をいくらか減らさなければならない等の問題が発生した。その中で最も重要だったことが、艦の全幅が 131フィート(39.93メートル)に達し、パナマ運河を通過できなるなってしまうことだった。
二つ目の案は18インチ砲を三連装ではなく連装にしてしまうことだった。こうすれば重量とスペースを稼げることが できたが、新たに連装砲塔の設計をする必要があったためこの案は即座に破棄された。
三つ目と四つ目の案はより小ぶりな16インチ砲を搭載するというものだった。
このとき選択肢に上がった16インチ砲は2種類あり、一つがノースカロライナ級戦艦やサウスダコタ級戦艦が搭載する45口径16インチ砲Mk6で、もう一つが
より新しい50口径16インチ砲Mk7である。
Mk6を選んだ場合、砲塔がより小さく軽いため設計に関する作業が楽になる一方で、火力が十分でない問題があった。
そこで四つ目の案、つまりMk7 50口径16インチ砲を搭載することが、火力、サイズ、重量、コスト的に最もよい妥協点と見なされた。
Mk7を搭載した場合、他の案に比べいくつかのアドバンテージがあった。Mk7は18インチ砲Mk1に比べ2倍の発射速度を持ち、
16インチ砲Mk6よりも射程が延びるのだ。更に16インチ砲弾に耐えうる十分な装甲を主砲塔に装備することができた。
このMk7 16インチ砲を三連装三基を搭載した場合その重量は6,300トンになり、これは船体排水量の約12%を占めた。
Mk7の設計と製造はワシントン海軍工廠にある海軍砲熕工場が行ったが、9門の16インチ砲の設置作業は複雑を極め、外科手術のような 慎重さをもって行われたという。それぞれの砲身は砲尾を含まないで120トンの重量があり、1トンの砲弾を約24マイル先まで発射することができた。
弾種には徹甲弾やHC弾などがあるが、1950年代には15〜20キロトンの威力を持つ核砲弾、Mk23「ケイティ」まで用意されていた。
防御
アイオワ級戦艦の装甲レイアウトは基本的には前級のサウスダコタ級と同様である。 両級ともに船体内部に舷側装甲を装備していることが特徴であり、且つそれまでの ノースカロライナ級戦艦からの重要な変更点である。
ノースカロライナ級では対14インチ砲防御を想定しており、装甲帯が船体外側に装備されていた。
一方サウスダコタ級とアイオワ級では16インチ砲の砲撃に耐えうることを目標とされた。このレベルの
防御力を得るためには装甲を19度傾斜させる必要があったが、そうするとノースカロライナ級同様外側に
装甲帯を設けた場合、艦の安定性を得るために艦の幅を大きくする必要がありパナマ運河を通過できなくなってしまう。
船体内部に装甲帯を設けることは設置が難しく建造コストが高くなるうえ、メンテナンスや修理が困難に なるというデメリットもあるが、対16インチ砲防御とパナマ運河可能を両立させるために採用された。
この装甲は理論上45度の落下角度で飛来する16インチ砲弾を食い止めることができる。
当初18インチ砲にも耐えられるように
する案もあったが、さらなる重量増大を招くのと、再設計が必要になることから採用は見送られた。
装甲の製造にはニッケル鋼が使用されたが、これはステンレス鋼の一種で腐食しにくく加工しやすい。
ニッケル鋼自体は特に新しい素材というわけでもなく、アメリカ初の近代的戦艦USSインディアナ(BB−1)にもこの種の
装甲が使用されている。
アイオワ級戦艦では甲板から喫水線下に至る範囲に厚さ17.5インチのニッケル鋼装甲を両舷に 設置し、1番砲塔から3番砲塔までに相当する船体の中央部、全長の三分の二にわたる範囲をカバーしている。 そして砲塔には18インチ、甲板には11.5インチのアーマープレートがそれぞれ装備された。
動力機関
アイオワ級戦艦には8基のボイラと4基のタービンが搭載されており、その合計出力は212,000馬力にも達し、 33ノット(時速61km)という戦艦史上最も速い速度を維持することができる。 これはドイツのビスマルク級戦艦よりも4ノット、大和型戦艦より6ノット上回る速度だ。 この高速度を達成するためにアイオワ級戦艦の船体は、ノースカロライナ級やサウスダコタ級に比べて約200フィート(61メートル)も 長く、巡洋艦のような細長い形状をしている。
ボイラ8基はバブコック&ウィルコック社製の高温高圧のもので、水を430℃まで加熱し、4,500キロパスカルの 蒸気を生み出す。
4基のタービンはゼネラル・エレクトリック社製のダブル・エクスパンション型エンジンで、タービン1基につきスクリューシャフト 1本を回転させる。外軸のスクリュープロペラは直径5.5mで4枚のブレードを持ち、内側のものは直径5.3mで5枚のブレードを持つ。
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関連ページ
- Googleマップでアイオワ級戦艦を見る。
- 4隻すべてのアイオワ級戦艦がGoogleマップで見ることができます。ほぼ真上からの撮影なので、巡洋艦のように細い船体形状がよく分かります。
- Iowa Class Battleship fires its 16 inch guns
- ウィスコンシンの主砲斉射動画です。射撃後に砲身が装填角度(仰角5度)まで移動している様子がわかります。
- Big Guns - Revised
- ミズーリの射撃動画です。少し離れた場所からの撮影なので、発砲炎に遅れて射撃音がやってきています。
Specifications | |||
排水量 | 45,000t(基準) 58,000t(満載) |
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全長 | 271.27 m | ||
全幅 | 33m | ||
喫水 | 10.97m | ||
最高速度 | 33kt | ||
航続距離 | 16,600海里(15kt) | ||
動力装置 | ボイラ8基 タービン4基4軸 212,000馬力 | ||
武装 | 竣工時 |
50口径40.6cm三連装砲3基 38口径12.7cm連装砲10基 56口径40mm四連装機関砲20基 70口径20mm機関砲49門 |
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近代改装後 |
50口径40.6cm三連装砲3基 38口径12.7cm連装砲6基 BGM-109トマホークミサイル4連ランチャー8基 RGM-84ハープーンミサイル4連ランチャー4基 ファランクス20mmCIWS4基 |
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装甲 | 舷側装甲 | 307 mm | |
甲板装甲 | 191 mm | ||
バーベット | 295〜439 mm | ||
主砲塔 | 500 mm | ||
乗員 | 2,700名(WW2〜ベトナム戦争) 1,800名(近代改装後) |
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同型艦 |
アイオワ ニュージャージー ミズーリ ウィスコンシン イリノイ(建造中止) ケンタッキー(建造中止) |
船体が細くてスマートなため、見た目からもそれまでのアメリカ戦艦に比べてかなり洗練された印象を受けます。 逆に無骨さとかそういう類のものはなくなってしまったので人によっては味気なく感じるかもしれませんね。
ちなみにミズーリは自分が作った初めての艦船模型だったので個人的に思いいれがあったりします。