アドミラル・クズネツォフ級重航空巡洋艦
проект 1143.5 Адмирал Кузнецов
Admiral Kuznetsov class heavy aircraft carrying cruiser
プロジェクト1143.5の名称で知られるアドミラル・クズネツォフ級重航空巡洋艦は、冷戦下の1983年に 黒海沿岸のニコラーエフ南造船所で起工され、1985年に進水、1991年1月に就役したが、当時すでにゴルバチョフ の改革政策が進んで冷戦は終わっており、ほどなくソ連も解体しロシアになっていた。
当初の艦名はソ連共産党書記長 の名をとって、レオニード・ブレジネフと予定されていたが、進水時にはグルジア共和国の首都にちなんでトビリシと 名付けられ、二転三転した結果最終的にアドミラル・クズネツォフと改名された。
アドミラル・クズネツォフはソ連・ロシア海軍初のCTOL(conventional take-off and landing)空母である。
それまでにソ連海軍が所有していた空母(ソ連での名称は違うが)には
モスクワ級対潜巡洋艦2隻と、キエフ級対潜巡洋艦4隻があったが、
前者の搭載機ははKa−25ホーモン対潜ヘリ、後者はKa−25およびYak−38フォージャーVTOL戦闘機で、
いずれもCTOL機を運用するものではなかった。
アドミラル・クズネツォフの登場によって、ソ連/ロシア海軍は
固定翼機を運用する
本格的な大型空母を初めて所有するに至ったわけである。
なお2番艦のワリャーグが1988年に進水したが、ソ連崩壊からくる財政的な理由により建造は中止された。その後 ワリャーグは艤装を撤去されたのち、中国へと売却された。現在は大連港にて改装作業が進行している。
STOBAR空母
アドミラル・クズネツォフの搭載機は、Su−27戦闘機の艦載型であるSu−33フランカー戦闘機20機と
Ka−27ヘリックス対潜ヘリコプター16機、Ka−31ヘリックスAEW機2機、そしてSu−25UTG
複座練習攻撃機4機といわれている。
この搭載航空機の編成を見ると、ある程度の攻撃能力を備えた戦闘機と対潜ヘリコプターが主で、アメリカ海軍の空母航空団
のような電子戦機や対潜哨戒機、固定翼の早期警戒機はなく、総合的な能力や柔軟性、多様性には劣ると見れる。
アドミラル・クズネツォフは現代のCTOL空母としては標準的な角度7°のアングルド・デッキを持つが、
カタパルトは装備しておらず、スキージャンプを用いてCTOL機を発艦させるという他に例を見ない方式を採用している。
蒸気カタパルトは1950年代にイギリス空母ペルセウスに初めて搭載されて以来、現在のアメリカ海軍のC13に至るまで
多くの改良が重ねられてきたが、CTOL空母のノウハウが全くないソ連海軍が十分な実用性を持つ蒸気カタパルトの開発
に苦労したことは想像に難くない。そしてようやく実用段階ににこぎつけた蒸気カタパルトも
、予算的な理由からついにアドミラル・
クズネツォフへの搭載は見送られている。
カタパルトの代わりに搭載されているスキージャンプは角度12°で、これは改装後のインヴィンシブルと同じである。
飛行甲板前部にあるブラスト・ディフレクターからスキージャンプ先端までの距離は約120mあり、
アングルド・デッキにあるもう1基からは約200mある。アドミラル・クズネツォフの固定翼機は
離艦重量に応じてこのふたつの発艦位置を使い分けるとされている。
着艦は他のCTOL空母と同じくアレスター・ワイヤが用いられており、飛行甲板後部に4本が張られている。 アドミラル・クズネツォフの搭載機は、スキージャンプを用いて短距離で離陸し、拘束装置にフックを 引っ掛けて着艦するわけである。 このような方式をSTOBAR(Short Take Off But Arrested Recovery) と呼ぶようだが、いまのところアドミラル・クズネツォフしか実例はない。
重武装空母
アドミラル・クズネツォフのもうひとつの大きな特徴は、固有兵装の多さである。
防御用として、SA−N−9ガントレット中距離対空ミサイルが8発収納された
円形の垂直発射型ランチャー、"Klinok"(ロシア語で剣の意味)防空ミサイルシステム6基が1組
となったグループが、艦の前後両舷計4ヶ所に配置されており、ミサイル総数は192発に達する。
短距離防御用にはSA−N−11グリソム対空ミサイル8連装発射機と GSh-30K30mmガトリング砲2門を組み合わせた"コルチーク(海軍士官が持つ短刀の名)"防空システムが Klinokのグループに隣接して2基ずつ、計8基が搭載されている。さらに近接防御用として6砲身30mm ガトリング砲AK−630が左舷中央と艦尾に2基ずつ計4基搭載されている。
対潜防御装備も有しており、10連装の対潜ロケット発射管を持つUDAV−1対潜・対魚雷防御システムを艦尾両舷に 2基配置している。
そして特筆すべきは長距離用攻撃兵装としてP−700"グラニート"(NATOコード名:SS−N−19"シップレック")対艦ミサイルの 発射機が12基、スキージャンプの付け根の飛行甲板下に埋め込まれている事である。
グラニートは キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦や オスカー級原子力潜水艦にも搭載されており、射程距離500km 、発射重量約7tもある巨大な対艦ミサイルだ。
アメリカ海軍のニミッツ級空母がその攻撃能力も防御能力も搭載航空団と空母戦闘集団の巡洋艦や駆逐艦にほぼ
依存して、固有兵装は近接防御用のファランクスCIWS3基のみであるのと極めて対照的だ。
もちろんこの配置では、ミサイルの発射と航空機の発着作業はそれぞれ干渉し合うので両方を同時に
行うことはできず、空母の運用という観点
からすれば決して合理的ではない。また前部の艦内スペースも食われるので、搭載機数の減少にもつながっているとも見られる。
このような対艦ミサイルの主な標的は、アメリカの空母戦闘集団であることは言うまでもなく、
冷戦時代の名残を強く感じさせる装備でもある。
アドミラル・クズネツォフはその設計や運用方もアメリカの空母とは大きく異なるものであり、
同型艦一隻のみで効果的な運用が可能なのか判然としない点はあるものの、
今後もロシア海軍が保有する唯一の空母というステータスシンボル的な存在として
運用され続けると見られている。
一方中国に売却された2番艦ワリャーグは練習空母としての就役が予定されており、
中国はワリャーグで得たノウハウを元に4〜6万トンの中型空母2隻の建造を計画している。
艦載機としてSu−33や殲−10の
改良型が搭載される予定だ。
関連リンク
- ■関連動画(Youtube):
- Admiral Kuznetsov
- Snapped cable on Kuznetsov
- Su−33
- ■関連ページ:
- Google Mapで見るロシア海軍
Specifications | |
排水量 | 53,000〜55,000t(基準)、67,500t(満載) |
全長 | 302.3m |
水線長 | 270m |
全幅 | 72.3m |
水船幅 | 35.4m |
最高速度 | 29kt |
航続距離 | 7,386海里(18kt) |
動力装置 | 蒸気タービン8基4軸 (200,000馬力) |
艦載機 |
Su-33(Su-27K)フランカーD戦闘機×20 Su-25UTGフロッグフット攻撃機×4 Ka-29ヘリックス対潜ヘリ×16 Ka-31ヘリックスAEW×2 |
武装 |
P700"Granit"対艦ミサイル(SS-N-19)×12 Klinok防空ミサイルシステム(ミサイル総数192) コルチーク防空システム(CADS-N-1)×8 AK-630ガトリング砲×4 UDAV-1対潜・対魚雷防御システム×2 |
乗員 | 1,960 |
同型艦 | アドミラル・クズネツォフ ワリャーグ(中国に売却済み) |